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仙台高等裁判所 昭和57年(う)128号 判決 1982年10月07日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人沼波義郎提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

所論は、要するに検察官は原審第一回公判廷において起訴状の公訴事実別紙一覧表番号24のうち販売先欄に「右同県米沢市窪田町矢野目二〇八四島貫節子」とあるを「右同県南陽市二色根三三―三〇岩船広男」と訂正したが、右の訂正はそもそも許されず、訴因変更手続をもっても許されない公訴事実それ自体の変更にあたるから、原判決が右訴因訂正後の訴因についてのみ判断を示し、訴因訂正前の訴因について何ら判断を示していないのは、刑訴法三七八条三号にいう「審判の請求を受けた事件について判決をしない」違法があるというものである。

よって所論にかんがみ記録を調査検討すると、山形地方検察庁検察官は、昭和五六年一二月二五日山形地方裁判所に、被告人を、「被告人は、山形県南陽市内に小売店舗を置き、第一種課税物品である貴石並びに貴石製品等の小売販売を業とするものであるが、物品税を免れようと企て、別紙一覧表記載のとおり昭和五五年一月から同年一〇月までの間の各月において、物品税法別表第一種の物品一号ないし三号の課税物品である貴石製品等合計二四点を中川敬子ほか一七名に小売販売したのにかかわらず、右販売に関する事実を帳簿に記載せず、納品書及び領収書の各控の一部を破棄隠匿し、かつ右各月の翌月末日までに法定の申告書を所轄米沢税務署長に提出しない等の不正の行為により、各月の物品税合計一三四万八、九五〇円を免れたものである。」との公訴事実をもって、その罪名罰条を物品税法違反、同法四四条第一項第一号として起訴したこと、右起訴状の別紙一覧表のうち番号24には、昭和五五年一〇月にPM台カットリング一個を山形県米沢市窪田町矢野目二〇八四島貫節子に三万円で小売りし、その課税標準たる価額は二万六、〇〇〇円、その税額は三、九〇〇円である旨記載されているが、これ以外には同月中に第一種課税物品を小売した旨の記載がないこと、原審第一回公判廷において、検察官は右番号24の物品の販売先を山形県南陽市二色根三三―三〇岩船広男と訂正する旨申し立て、被告人も弁護人も右訂正に何ら異議を申し立てることなく、右起訴状訂正後の公訴事実を全て認めたので、原裁判所は右訂正後の公訴事実について審理を遂げ、昭和五七年五月一四日右訂正後の公訴事実と同一の事実を罪となるべき事実として認定し、右事実は販売月ごとに物品税法四四条一項一号に該当するとして被告人に対し有罪の判決を言い渡したこと、以上の事実が認められる。

さて物品税法四四条一項一号は「偽りその他不正の行為により物品税を免れ、又は免れようとした者」に対し刑罰を科する旨定め、同法二九条一項は、「第一種の物品の販売業者は、その販売場ごとに毎月(第一種の課税物品の小売がない月を除く。)、政令で定めるところにより、次に掲げる事項を記載した申告書を翌月末日までに、その販売場の所在地の所轄税務署長に提出しなければならない。」とし、その記載事項としてその月中に小売をした第一種の課税物品の品名、品名ごとの数量、課税標準たる金額(以上、一号)、二号に規定する課税標準額、三号に規定する課税標準額、当該物品税額の合計額(四号)、五号に規定する物品税額、六号に規定する物品税額、同項七号に規定する不足額、その他参考となる事項(八号)を掲げているところ、右によると、同法四四条一項一号、二九条一項の構成要件事実は、行為主体が第一種物品の販売業者であること、その者が第一種の課税物品を販売したことによって(月ごと、販売場ごとに)納税義務を負担したこと、物品税を免れるため偽りその他不正の行為をしたこと、これにより物品税を免れたこと又は免れようとしたことであり、その公訴事実の同一性の特定のためには、右の業者が、特定の月に特定の販売場において第一種課税物品を小売りしたことにより納付義務を負担することになった物品税のうち納付義務を免れようとした額、右の業者がとった偽りその他の不正の行為の内容、すなわち法二九条一項所定の申告書を所轄税務署長に提出しないことによるのか或いは虚偽の記載をした申告書を所轄税務署長に提出したことによるのか、免れた税額又は免れようとした税額を明示すれば足り、その物品の購入者の氏名及び住所の明示は公訴事実の同一性の特定に何ら必要なことがらではない。

してみれば、前記番号24については、販売物品の購入者の氏名及び住所の記載の有無にかかわらず公訴事実は特定されているというに十分であり、かつ右の購入者の氏名及び住所の記載の訂正は何ら右の公訴事実の同一性に変更をきたすものではない。右の記載の訂正をもって公訴事実の変更に当るとする所論はとることができず、原裁判所が右番号24について判決をしていることは前判示のとおりであるから、論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、当審における訴訟費用については刑訴法一八一条一項但書により被告人に負担させないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中川文彦 裁判官 藤原昇治 渡邊公雄)

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